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東京高等裁判所 昭和35年(う)2087号 判決 1961年1月17日

被告人 石川鷲勝 外一名

主文

原判決を破棄する

被告人水戸部吉次郎を懲役一年に処する

被告人石川鷲勝に対する本件公訴はこれを棄却する

理由

論旨第二について。

被告人石川鷲勝に対しては、検察官において同被告人の生年月日は昭和十三年三月二十日であり、当時満二十才に達しているものとして昭和三十五年二月二十二日及び同月二十四日の二回に少年法に定める手続を履践することなく、即ち家庭裁判所を経由せずして本件公訴を提起したものであることは記録上明らかである。然るに原審が適法に証拠調をした被告人石川鷲勝の戸籍謄本によれば、同被告人は昭和十五年三月二十日生れで本件公訴提起の当時は未だ満二十才に達しない少年であつたことが明らかであるから、同被告人に対しては少年法第四十二条、第二十条により家庭裁判所を経由して公訴を提起すべきにかゝわらず右手続を履践しないで提起された本件公訴提起の手続は少年法の規定に違反したもので、刑事訴訟法第三百三十八条第四号にいわゆる公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるときに該当するものと解するを相当とする。尤も原判決言渡当時には同被告人は既に満二十才に達しているのであるが少年に対し少年法所定の手続によらないで公訴を提起することは、少年が少年法により保護さるべき重大な利益を奪う結果となりその影響するところ多大であるから、判決言渡当時被告人が既に成人に達しているの故を以てその瑕疵が治癒されるものと解すべきではない。故に原審はよろしく判決を以て被告人石川に対する本件公訴を棄却すべきであつたのに、右公訴を受理し同被告人に有罪の判決を言い渡したのは、訴訟手続が法令に違反し、その違反が判決に影響を及ぼすこと明らかであるから論旨は理由がある。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条により原判決を破棄し、同法第四百条但書により更に次のように判決する。(中略)

被告人石川鷲勝に対する本件公訴事実は……(省略。窃盗四件)というのであるが、本件公訴の提起は前記説明の如く公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるから、刑事訴訟法第三百三十八条第四号により本件公訴を棄却すべきである。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判官 岩田誠 渡辺辰吉 秋葉雄治)

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